BtoCとネット販売の構想実現へワークショップに参加
ーーこまき新産業振興センターのワークショップに参加されたきっかけは。
「 近い将来に自社の新たな取組を」という思いから
後藤朝公社長
私たちは、元々BtoBをメインに、企業向け製品などを造っている会社で、プラスチックのハンガーや化粧樽などが主な製品です。
近い将来、会社の新しい取り組みとして「一般の方向けのBtoC製品を作りたい」という希望と、「ネット販売で販路を広げたい」という思いを持っていました。
後藤文彰氏
2022年の2月に、スキルアップの一環という考えで、こまき新産業振興センターさんから勧めていただいた全3回のワークショップ「小牧デザインイニシァティブ D2C(Direct to Consumer)ワークショップ」に参加しました。
その際は、新しいモノを作り出す際の進め方について、講師でデザイナーの星野泰漢先生からレクチャーがありました。このワークショップは3日間開催されました。
ゴトウ容器の後藤文彰氏が参加した2022年開催の”D2Cワークショップ~Lean Startup”
小牧デザインイニシァティブ「D2Cワークショップ 」D2Cワークショップ~本気の挑戦者募集 Lean Startup ※開催終了小牧デザインイニシァティブ「D2Cワークショップ」~本気の挑戦者募集 Lean Startup(リーンスタートアップ)~開催概要D2C(Direct to Cons...
しかし実を言うと、その時点ではピンとこなかったんです。
その後また、星野先生が関わる「AICHI DESIGN VISION」というプロジェクトへの参加を、こまき新産業振興センターさんから勧めていただきました。
コロナ禍に新製品開発のプロジェクトを立ち上げる
ーー「AICHI DESIGN VISION」のプロジェクトは、愛知県のモノづくり企業と、その企業の技術に惹かれ想いに共感したデザイナーとマッチングして、コロナ禍の時期に立ち上げました。
約10か月間のオンラインを交えた打ち合わせにより新製品を開発し、販売までをサポート受けられるというものです。どのようなお考えで参加されましたか。
「新しいことをやってみるか」
後藤朝公社長
新製品の開発にあたり、デザイナーや第三者の意見が必要だというのは重々感じていました。今まで自分たちがBtoC製品を生み出すことができていないということは、今いる業界の考えに縛られているからだろうと。
新しい知恵だったり、会社を違う側面から見てみたりということができなかったので、「新しいことをやってみるか」という思いでした。
楽しみな反面、半信半疑の部分も
どんなアイデアやデザインが出てくるのかと楽しみである一方で、費用もかかることですし、半信半疑の部分もありました。
30歳になったばかりの若いデザイナーさん2名が、自分たちとマッチングしてはみたものの「実際のところどうなるだろうか」という思いはありました。
成果が上がるのか? 社内協議を重ねスタート
後藤文彰氏
それまでは、デザイナーに依頼するという考えはありませんでした。
企画面であまりお金をかけたくないという思いもありましたし、費用をかけた分のリターンというか、成果が上がるのかというと、正直疑問なところがあったからです。
ですから当初は、「本当に大丈夫なのか。結局、お金だけ掛かって成果なしという形になるのでは」と心配で、社内で協議を重ねました。
マッチングしたデザイナーと製品の実現性を検討
ーー製品企画はどのように進められましたか。
デザイナーの発案は自社と真逆のアイデア
後藤文彰氏
私たちゴトウ容器とマッチングしたのは鈴木僚さんと三品拳大さんという、プロダクトデザインなどを手掛ける若いデザイナーさんです。
お二人と仕事を進めるうちに、様々な気づきがありました。
約10カ月間で商品を開発しなければいけないので、月に一度は「AICHI DESIGN VISION」にエントリーした他の会社さんと一緒にオンラインで打ち合わせをして、そのほかに個別でも打ち合わせを重ねました。
デザイナーが興味を持った素材は「木」
私たちは、元々はプラスチックの成型で何か製品を造りたいと考えていたのですが、デザイナーさんが興味を持った材質は木でした。
想定とは真逆の「木の樽で何かやりたい」と言われて意外に感じました。確かに贈答用の木樽も製造してはいましたが・・。
デザイナーさんから提案されたアイデアは2つ。
「樽を使ったアウトドア用の燻製器」と、今回の「糠漬けの保存容器」でした。
デザイナーの熱意に押され糠漬け用樽の開発へ
ーーデザイナーさんから提案を聞いてどのように感じましたか。
トレンドながらも目新しさに欠けるのでは?
後藤朝公社長
「糠漬けの木樽」という提案を聞いて、正直最初は「今さら、糠漬け用の樽か……」と思いました。
発酵食品はトレンドなので、アイデアはいいとしても、新人デザイナーが考える案としては目新しさがないな、と。
うちでも、糠を直接入れるものではありませんが、プラスチックの化粧樽で糠漬け用の容器を作っていましたから。
保存容器に機能性を持たせる方向性に決まるも・・
後藤文彰氏
樽を使ったアウトドア用の燻製器の方は、安全性について試験をするにも多くの費用がかかるとが分かり断念しました。
デザイナーさんが大の糠漬け好きで、情熱があったということもあり、「糠漬けの保存容器に、何か機能を持たせてデザインしましょう」ということに決まりました。しかしながら、この計画がなかなか前に進みません。
プロジェクトとしてはかなり遅れ、一緒に始めた他社の製品が発売などの形になる頃でもこちらは全く形になっておらず、正直言って焦りました。
アイデアに技術が追いつかずプロジェクトに遅れ
ーー進行が遅れてしまった原因は何でしょうか。
後藤文彰氏
デザイナーさんが求めるものに対して、技術が追いついていかなかったことでした。
「冷蔵庫で保存できる」という利便性とサイズ感がテーマでしたが、天然の木工製品なので、冷蔵庫に入れると乾燥して割れやすくなり、なかなか柔軟な対応ができません。何度もテストしましたが、うまくいきませんでした。
元々が、無理なことに挑戦していたともいえるので、途中でこの計画は頓挫するのではないかと思ったこともありました。中途半端なものを世間に出すくらいなら、いっそプロジェクトを止めようかと・・。
結果、発売までに1年半くらいかかりました。
試行錯誤から課題解決の技術にたどり着く
ーーどのように問題を乗り越えましたか。
社長のアドバイスから試行錯誤を開始
後藤文彰氏
社長から「コーティング材によっては、乾燥が防げるのでは? これまでに使ってきた木材用のコーティング材のほか、ニカワやウルシも試してみよう」というアドバイスがあったんです。
それからは、いろいろなコーティング材を試しました。それでも思ったようにならなかったので、こまき新産業振興センターに相談しました。
導入したコーティング材でFDA認証の糠樽に
そこから「AICHI DESIGN VISION」の運営会社さんと繋いでもらうことができ、そこからの縁で木箱に使えるコーティング材を使用している会社さんを紹介してもらい、糠樽に使うコーティング材が決まりました。
並行して保健所に通い、このコーティング材が食品を直接入れる容器にも使えるというお墨付きをもらいました。FDA(アメリカ食品医薬品局)認証の証明書もあります。
これまで私たちが販売していたのは、化粧樽と呼ばれる容器パッケージでしたが、今回は人が口に入れる食品の直接の容れ物なので、安全性には特に配慮しました。
新製品「ぬかだる」が2日間で対目標4000%の売上
ーー完成した糠漬け用木樽は「ぬかだる」とネーミングされ、「AICHI DESIGN VISION」の一環として、2023年10月にクラウドファンティング「Makuake」で販売を開始。
2日間で完売するとともに目標金額に対し、売り上げ4000%という結果でした。
テストマーケティング → 完売+部門売れ行き1位を獲得
後藤朝公社長
当初は「どのくらい買う人がいるのだろうか?」と、テストマーケティングのつもりもありました。また今後、ネット上に販路を広げるための第一歩として、世間の反応を見てみたいという気持ちでした。
6千円台の「ぬかだる」のほか、7千円台や8千円台で、取引先の糠床とのセットも用意しました。最初は売れ行きに期待をしていなかったので、販売目標金額は控えめにしました。
販売開始の日は休日だったので、自宅でネットをチェックしていたら、その売れ行きにびっくりしました。どんなに売れても200個がせいぜいかな・・と想定していたくらいですから。
しかし2日目に完売して600個以上が売れ、追加生産をかけることになりました。
2日目の「Makuake」の「グルメ部門」で、売れ行き1位も獲得できました。これはうれしかったですね。
腸活や現在の生活ニーズで受け入れられた
ーー「腸活」などで発酵食品が見直されているとはいえ、ここまで受け入れられた理由は何でしょう。
商品性が現代の暮らしにマッチ
後藤朝公社長
ぬくもりを感じる木樽でありながら、冷蔵庫に入れられるサイズ感と利便性を併せ持った商品の性質が受け入れられたのでしょう。
また、ぬか床を冷蔵庫で管理することで発酵の速度を抑え、かき混ぜの回数が少なくなります。このあたりが忙しい現代人の暮らしにマッチして、重宝されている理由です。
木樽には水分を調整する力がありますから、頻繁に水抜きする必要がありません。それに、従来の糠漬けの容器は四角ですが、丸い樽は、味が均等に回るという利点があります。
味にも良い変化があるのかもしれないですね。自然の材質なので、糠の微生物とも相性がいいのではないかと思っています。
味と利便性に好ましい感想をいただく
実際に、「糠漬けの味がまろやかになっておいしくなった」という声や、利便性の面では「サイズ感がちょうどいい」や「出張が多いが、冷蔵庫に1週間入れたままにできるのでラク」などという好ましい感想をいただいています。
いずれにしても自分で手間をかけたものって、おいしいですよね。
腸活はもとより糠漬け再開の契機にも
後藤文彰氏
購入されたお客さまは女性が大半です。元から「腸活」をしていて糠漬けに興味を持つ人のほかに「以前は糠漬けをしていたので、このぬかだるで再開したい」という人も多いようです。
デザイン性もあって、潜在的な需要を掘り起こすことができたのかもしれません。
初めてのBtoCへ踏み出してみて
ーー今回のぬかだる、初めてのBtoCプロジェクトを経て、現在の思いは。
デザイナーの視点と熱意に感謝
後藤文彰氏
木の樽でぬか床を作り、冷蔵庫で保存するという使い方は、自分たちだけの考えでは勇気がなくてできません。
デザイナーさんの視点と熱意があってこそ生まれた製品だと感謝しています。
BtoCは踏み出さないと何も始まらない
後藤朝公社長
まずは、一般の方向けの商品を世に出せたことが良かったと思います。BtoCに関しては、踏み出さないと何も始まらないと思っていましたから。
これを機に、BtoCに力を入れていきたいと思います。先日はフランスで味噌を作っている日本人の方から、大きな味噌樽の注文が入るなど、ビジネスに広がりを感じています。
全て納品した上でぬかだるの新展開を図る
一方で、クラウドファンティングは成功という形になりましたが、まだ全てを納品したわけではありません。気を引き締めて製造し、納品していきます。
今後はお客さまからのフィードバックの声も参考に、販売方法も含めて、ぬかだるの新展開を考えていきたいと思います。
こまき新産業振興センターの支援について
ーーこまき新産業振興センターの支援には、どのような印象をお持ちですか。
自社以外の視点とアイデアを
後藤文彰氏
私は今回の件で、何かあると駆け込み寺のように頼り、実際に駆け込んだり、電話で相談したりして支援していただきました。「どんなことでも、あそこに聞けば何か回答をくれるだろう」と信頼しています。
自分たちの従来の考えだけでは、頭打ちになってしまうところに、新しい取引先などのアイデアをいただき、助かりました。
ぬかだるのプロジェクトを機会に今後も活用
後藤朝公社長
これまではこまき新産業振興センターさんの存在自体をあまり知らなくて、名前を書面などで見かける程度でした。今回のようなことがなければ、ここまで深く関わることはなかったと思います。
今は、「もっと早く相談すればよかった!」という気持ちです。今後は様々な機会に、どんどん活用させていただきます!
株式会社ゴトウ容器 会社所在地
〒485-0059 小牧市小木東3-105
TEL(0568)77-7786 FAX(0568)73-0184
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代表者
代表取締役社長 後藤 朝公
【資本金】
3,200 万円
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