喫茶店のモーニングで食べるパンは、特別おいしく感じられるのでは。
モーニング文化のある東海エリアの多くの人が口にしているはずのパンが「本間製パン」の食パンだ。業務用パンメーカーとして小牧市に本社を置き、食のプロたちに愛されて67年の歴史を持つ。

近年はSNS運用にも積極的に取り組んでおり、現在Instagramのフォロワーが3,000を、Xのフォロワーが30,000をそれぞれ超えるというアカウントを運用している。
今回のこまき光モノでは、本間製パン株式会社の秋田雅美代表取締役社長に製造者としての理念を伺うとともに、企業SNSの運用担当者に企業としての情報発信として心がけていることを伺った。
秋田雅美代表取締役社長│本間製パン株式会社
愛知・岐阜のモーニング文化とともに成長

愛知・岐阜のモーニング文化とともに成長|本間製パン株式会社の本社
小牧市下小針のこの地に、先代の人々が本社を移したのが1976年。
かつての名古屋市西区の場所よりもインターチェンジが近く、国道41号線といったメイン通りもあり、配達ルート的にも好都合なのではないかという考えでした。配送センターは三河方面などにあり、東は浜松方面、西は三重県の松阪市まで配達させていただいています。
食のプロへのパン供給で成長を重ねる
私たち本間製パンが現在のように大きく成長することができた理由は、愛知県や岐阜県にある「モーニング文化」が一番だと思います。
モーニング文化の根付いた東海圏の喫茶店をはじめとした食のプロのお客さまへ食パンを供給することで、会社は成長を重ねてきました。
バブル時代、スーパーを中心に販路を広げるが・・
転機はバブル時代ですね。時流により、経営面で変化を感じて「やはり取引先が喫茶店さんだけではいかんぞ」という話になり、スーパーマーケットにも商品を置いていただくことにしました。
主に、アピタさんやヤマナカさん、フィールさんといった、愛知県をメインにしているスーパーマーケットに展開しています。皆さんに言っていただけるように、「本間パンはおいしい」ということは広まってはいるものの、喫茶店に行かない方々にも当社の食パンを提供したいなと考えたからです。
製法と味へのこだわりから原点に立ち返る
ですが、愛知県にはパンの大手の企業がいくつもありますから、同じことをしてもうちが勝てるわけがない。「うちはうちですよ」という、独自の路線で進んでいこうと考えました。
私がまだ営業担当だった頃、取引先のバイヤーとお話しした時に「本間製パンを置くことにしたのは、他のパンとは違うからだよ。だから、そちらがやりたいことをやってくれればいい」と言ってもらえたんです。
スーパーマーケットに並ぶパンだとすると、どう考えても、うちのパンは高いんですよね。やはり製法にこだわりがありますから。
当初は、「一般の方々にたくさん提供できれば」と考えて、製法を変えての大量生産についても視野に入れましたが、おいしくなければ意味がありません。
独自のブレンドで味わいの差別化

独自の小麦粉の配合で味わいの差別化
うちのパンの他社さんとの違いは、小麦粉のブレンドです。小麦粉は季節や場所によって出来が変わり、いつも全く同じものができるわけではありません。
お米も魚沼産がおいしいとか、今年の夏は出来がいいとかいいますよね。ワインにしてもそうです。やはり、その時期に1番いい小麦粉をということで吟味し、先代の人々がブレンドをしながら作ってきました。
小麦粉のブレンドを製粉会社さんに依頼する企業もあるかもしれませんが、うちは工場責任者にも長けたものがいますので、独自で配合しています。
5、6社の製粉会社さんとお付き合いをさせていただいていて、「今年の出来はこうだから、この時期はこれとこれを使おう」というようにブレンドして、できるだけお客さまに同じおいしさを提供できるようにと考えています。
安定した味のために酵母は同一メーカーで
一方でイースト菌、酵母は特別変わったものを使うわけではありません。
うちのメインのお客さんは一般の方ではなくお店の厨房を預かるシェフですから、今日のパンと明日のパンの味が違うと叱られてしまう。安定させようとすると、同じメーカーさんの酵母を使うということになります。
先日も、取引先のあるホテルの料理長が変わったということで、改めて工場を見学していただき、製法やうちの職人を見ていただいて、「これだったら間違いない」と、ご納得されて取引を続けていただくことになりました。
日々探究して心を込める我が子のようなパン

日々探究して心を込める我が子のようなパン
もともと、添加物などを極力使わずに作ってきたものですから、こだわりすぎて、値段が少し高くなってしまったんですね。
お客さまからは、「本間さんのパンは、ほかのパンと比べてどうしてカビが生えるのが早いんだ」などと聞かれますが、それは添加物を極力使わず、おいしいパンを食べていただきたいという製法であるがゆえです。
本来、パンは3日から4日くらいの賞味期限が普通だと思います。でも流通のことを考えると、大量生産の大手企業さんは、防腐剤を入れなければならない面があるのでしょう。
防腐剤を入れれば賞味期限を延ばすことができます。私たちも賞味期限を延ばしたい気持ちはあります。
しかし、その一方で「おいしくて体にやさしいパンを届けたい」という思いが勝ります。
「パンは生き物」
乳化剤を入れないパンは、口どけがよくきめ細やかなんです。何も塗らずに、素焼きで食べていただくとわかると思います。
「形が不揃いだね」ということもよく言われますけれど、これは、水と小麦粉を混ぜた生地による手作りだからです。パンのカタログには、何センチとサイズをうたってはいるものの、発酵物ですので、多少の大小ができてしまいます。

「パンは生き物」│本間製パン工場内
型に入れて焼くとは言っても、ハンバーガー用のバンズやホットドッグ用のドッグロールなどのバリエーションがあり、膨らむと高さも様々ですから、お客さまには「全く同じというのはなかなか難しいんですよ」とお話ししています。
よく言われるように「パンは生き物」なんですよ。空調完備の工房でも、季節やその日の温度と湿度により、水分量が変わってしまうこともあります。今日できたからと言って、明日も同じものができるとは限らない。先代の職人の方々も、「日々勉強だ」と言っていました。
うちでは、出来立てのパンが1番落ち着いた状態になった時に喫茶店さんに届けられるように、翌日できるだけ早めに配達しています。
一般消費者の方には、パンにバターやジャムを塗って食べる楽しみ方もあると思うのですが、やはり私たちメーカーの者は、素焼きで何も塗らずに食べても、いつも同じ味になるようにと探究しています。
日々自分たちでも食べて悩みながら、パン作りをしています。だからこそ、出来上がった自社のパンは我が子のようにかわいく、「おいしく食べてもらいなさいよ」という気持ちで送り出しています。
パンにしては値段が高いのですが、わざわざ小牧の直営店にまで買いに来ていただけるお客さまもいて、本当にありがたく思います。そういったお客さまたちのお気持ちを裏切らないよう、うちは日々、できる限り同じパンを作るだけです。
本当は365日、同じものが出せればいいんですけどね。社員みんなで模索しながら作り続けています。
パンのトレンドやニーズに合わせて進化

パンのトレンドやニーズに合わせて進化
パンの食べ方やパン業界自体も、少しずつ変わってきています。一時の高級食パンブームは、うちにとっては追い風となりました。いくら「本間パンは高い」と言われても、1斤1000円の食パンよりは安いですから。世間の方が、パンの値段が少し高くしてもいいんじゃないかと考えていただけたことはありがたかったです。
高級食パンブームでは、高級素材を入れて、口どけと柔らかさを求めた「生食パン」がトレンドでした。でも私たちのパンは、シンプルに軽く焼いてサクサクと食べていただくと、一番おいしさがわかるのではないかいいなと思います。
日本人に求められるフランスパンとは
日本人とパンの関わりの変化は、フランスパンを例に取りますとわかります。 フランスパンは、焼いてパリッと食べると、口が切れるかもしれないような硬さです。
そのフランスパンは、切ると気泡が入っていますよね。あれが当初は日本人に不良品だと考えられ、あまり受け入れられなかったのです。私たちもアヒージョが流行った時期にフランスパンを製造し、それを痛感しました。「フランスパンには穴が開いているのは当たり前」という自分たちの感覚が間違いでした。

日本人に求められるフランスパンとは
日本人には、生地が詰まった柔らかいフランスパンが求められていたのです。そこで、生地が詰まっているフランスパンを開発。一時は、社員を名古屋駅エリアへ出向かせ、洋風居酒屋やイタリア料理店へ、「お酒に合わせて、日本のお客さま向けに開発した、目が細かいフランスパンはどうですか?」という営業も展開しました。
目が詰まった柔らかなフランスパンは、今では本場の人達からも受け入れられています。おいしいと感じられるものの順位が変わってきているんですよね。
うちでは「気泡の穴が開きすぎている」と考える方のために、皮はフランスパンで中身が柔らかいバケットもありますが、パリッとしたバケットも作っています。「うちはこれしか作らない」ではなくて、嗜好の変化やお客さまのニーズに合わせて商品作りをするようにしています。
製造工場内のデジタル化をはじめ経営課題に取り組む
今後は、工場内のデジタル化を考えています。先日は愛知県から助成金をいただき、中小食品製造業に特化した会社に依頼して、製品個別原価、生産管理システムとデータを活用した管理業務、運用改善のDX支援を受けました。
他にも、色々と新しいシステムを取り入れていかなければいけないと感じています。うちが扱うパンは、「原価がいくらで、どれだけの時間でどれだけ作れるか」という商品ですから、より効率化を考えていかなければ。

製造工場内のデジタル化をはじめ経営課題に取り組む
例えば、パンの製造時の温度管理や異物混入の目視での確認などにIT化を取り入れる、無駄な電力などのコストを削減して利益率を上げる、後進を育てる教材を映像化するなど、業務のスリム化を進めていかなければなりません。
高温などの危険な場所での作業を担当してくれる協働ロボットの導入も検討しています。
物流面や技術継承などの課題も
物流の面でも、改善の余地があります。パン組合では、大手企業以外は共同配送でパンを運ぶのですが、他業種との違いは日配品であり、衛生面も重要だということ。
国から何かしらの助成金をいただいて、トラックや倉庫を購入するなど、何社かが共同で配送できるような仕組みができたらと考えています。
食品関係は、365日工場を止めることができないので、交代で休むことになります。希望日に休みが取りにくい状況がいまだにあり、どこのパンメーカーも、外国人の方々に来ていただいて、なんとかやっている状況です。このままでは、職人が辞めてしまうでしょう。
うちでは70歳オーバーの職人もまだまだ現役ですから、今後は若手を育てることや技術の継承が課題です。「これから伸びるぞ」という20代、30代の子たちに仕事を伝えていかなければいけません。
従業員から「働いていてよかった」と言われる会社に
私自身、入社して40数年になります。当初は工場に入り、厳しい先輩の職人達の中で揉まれました。大変なこともありましたが、幼少期に親父が買ってきたパンを食べた時に「おいしいな」と思った記憶が今もあります。「自分も記憶に残るようなパンを作り、世の中に広めていきたい」という思いが原動力です。
私は今、社長室の片側の扉をいつも開けています。そして「話があったらいつでも来ていいよ」と従業員に伝えています。
また、土曜日や日曜日に出勤している時は、できるだけ工場内を回るようにしています。やはり、パン作りが好きなんですよね。机の上であれこれ考えるよりは、現場に出て「今日の生地はどうだ?」と言って回っている方が楽しいですね。
将来的には、従業員が「本間製パンで働いていてよかった」と思ってくれる、そんな会社にしていきたですね。それには、社員の意見をできるだけ聞いて、みんなで判断して、やりたいことに挑戦して成長していけたらいいなと思います。
好評のSNS「本間製パンの中の人」にインタビュー

好評のSNS「本間製パンの中の人」にインタビュー│営業部SNS担当の松﨑佳与さん
今はX(旧ツイッター、以下同)とInstagramをメインに、私が写真を撮ってコメントを書き、投稿しています。皆さんからの投稿や反響も自分で確認します。
特にXでは、朝の挨拶である「おっはパンでございます」と投稿すると、皆さんがコメントを返してくださるので、一緒に会話をしているような感覚になります。
優しいフォロワーさんばかりで、SNSを通じて本間製パンを知って、「オンラインショップで買ったよ!」と写真を投稿してくださるなど、こちらが感動をいただいています。
投稿のタイミングを逃さずフォロワー数をアップ

投稿のタイミングを逃さずフォロワー数をアップ│本間製パンのInstagram画面より
元々は、Instagramを先に始めました。自分自身が本間パンのパンで料理をして、写真を撮って投稿することが好きで、今では趣味の一つになっています。Xに関しては、2020年頃に佐伯信哉常務取締役から「こちらも担当して欲しい」と頼まれて始めました。
励みになるのは、フォロワーさんが増えること。ある時、インフルエンサーの方が、本間パンをストーリーズに投稿してくださってから、フォロワーさんが増え始めました。そこで、「このチャンスにフォロワー数を伸ばしたい」と考え、その日から1日に3投稿を続けています。
フォロワー増加を機に投稿数増を続ける
今はInstagramのフォロワーさんが3,000、Xのフォロワーさんが30,000を超えています。Xには「Xスペース」という、ユーザー同士がリアルタイムで音声配信と会話ができる機能があり、とある企業の方が「Xスペース」で本間パンの名前を出してくださった時も、フォロワーさんが一気に増えました。
投稿に関しては、会社からはほぼ一任してもらっていますが、工場内で動画配信する時などは、映してもいい場所やものだけが映っているかどうか、佐伯常務に確認を取るようにしています。
気を付けていることは、特にXに関して、誤解を招くような文章表現はしないようにということです。慎重に、日々確認をしながら投稿しています。書いてから一度保存して、一呼吸おいてから投稿することを心がけています。
言葉を間違えて投稿して、1つでもフォロワーさんから「いいね」をいただいてしまうと、簡単に消すというわけにもいきませんから。
日常的にネタを探し、隙間時間に投稿の準備

日常的にネタを探し、隙間時間に投稿の準備
直営店である「パン工房 アヴァンセ」のことや、百貨店さん、他の飲食メーカーさんとのコラボレーションやイベントの様子も、現場の営業担当者から写真を送ってもらい、早めに投稿しています。
2023年には京都・宇治の老舗茶屋「森半」様の抹茶を使ったパンを、名鉄百貨店さんで販売しました。私も営業部に所属していて、横の連携ができますし、Instagramには他の営業担当者もログインできるようになっています。
また、新規で本間パンを使っていただく喫茶店さんなどでも、営業担当者が「Instagramをフォローしてください」と伝え、私の方もお客さんへフォローや「いいね」といったリアクションを返すようにしています。
喫茶店のお客さまが「本間パンを使っています」とメンションをしてくださったり、タグ付けをしてくださったりするので、ありがたいですね。

本社に隣接する直営店 アヴァンセの外観
先日はSNSから広がったパンのマルシェに参加させてもらい、 フォロワーさんにも実際にお会いすることができました。「ファンです」と言われて嬉しくて。もちろん、目的はパンのPRですが、マルシェなどはSNSで出会った方と現実でも会える機会であることにも魅力を感じました。
キャンペーンの実施などで一時的にフォロワーさんが増えることもありますが、いきなり「本間製パンのファンを増やそう」と考えても、なかなか難しいものです。やはり、日々の会話やコミュニケーションが大事と考えて、できる限りリプライは返すようにしています。
本当は全部のリプライに返事をしたいのですが、なかなか時間がなく追いつけないのが実情です。本当はリプライを返したくて返したくて、しょうがないくらいです!

アヴァンセ店内のパン各種
毎日の投稿のネタ探しに関しては、難しいんじゃないかと聞かれることもありますが、意外とそうでもありません。私は、何かの用事で工場に行く時も、カメラをぶら下げていきます。そこで色々撮影して、ネタのアイデア探しをしています。むしろ、投稿するためのまとまった時間が欲しいぐらいで、アイデア探しの時間には困りません。
SNSは手が空いた瞬間に取り掛かるので、隙間時間に「来週の分の動画を作っておこう」などと少しずつ進めています。
投稿時間についても日々研究していて、Instagramに関しては、皆さんの反応次第で投稿時間を変えることもあります。「この1週間はこの時間に投稿してみて、反応を見よう」という感じです。
もっと知っていただくために活用できるSNS発信を
今後の目標としては、皆さんにもっともっと本間製パンを知っていただくために、日々バージョンアップしていきたいということです。
皆さんに知っていただけたらオンラインショップの売上にも繋がるでしょうし、もしかしたら現在お取引のない地域の喫茶店さんに、私たちのパンをご利用いただけるかもしれません。
SNS担当として個人的には、動画制作のレベルを上げたいなと思います。また、ただファンを増やすだけでなく、例えばInstagramにパンのレシピを掲載するなどして、お客さんが活用できるようなSNS発信をしていけるといいなと考えています。
【本間製パン株式会社 会社所在地】
小牧市下小針中島1丁目1番地
【コーポレートサイトURL】
【代表者】
代表取締役社長 秋田雅美
【事業内容】
業務用高級食パン(ホテル、レストラン、喫茶店、機内食)の製造販売 家庭用食パン(宅配、通販、量販店)の製造販売 ベーカリーショップの直営 焼き菓子(ラスク)の製造販売 (通販・百貨店催事・SA)
【資本金】
8,000 万円
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