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小牧ワイナリーの始まりはブドウ畑の手入れから
小牧ワイナリーの運営母体である社会福祉法人「AJU自立の家」は、1990年に故寬仁親王殿下のご助言のもと、支援者ではなく数名の障がい当事者が自ら立ち上げた団体です。
障がい者が、ただ福祉を受ける立場に回るのではなく、自ら健常者と変わらない生活や就労ができるように活動していることが、自社の特徴です。
【社会福祉法人AJU自律の家のWebサイトリンク】
社会を変えるため、障がい当事者が自ら設立した団体
昭和期のある頃までは障がいが病気という認識で、障がい者は病院へ入院させられたり生活面で一定の制限がありました。
私たちの運営母体であるAJU自立の家は、障がい者の視点から社会の中で福祉を創る取り組みを行い、より良い暮らしを実現するために設立されています。
修道院のブドウ畑の手入れ請け負いがきっかけ
AJU自立の家がワイン事業を始めたきっかけは、2003年に仲間たちが岐阜県の多治見修道院のブドウ畑の手入れを請け負ったことでした。
知的障がい者や精神障がい者の自立を目指して、「まずは実践しよう」を信条とする団体として、思い切って引き受けました。
多治見修道院の紹介【多治見市観光協会Webサイトリンク】
小牧・多治見を合わせ年1.5万本を扱うワイナリーに
小牧ワイナリーも今では、合計1万5千本を扱うまで成長しました。
小牧以外でも岐阜の多治見修道院のすべてのワイン生産を任され、赤・白ワイン共に、100%小牧産のブドウを使用したワインも製造しています。
畑の手入れからラベル貼りまで個人の特性に応じた作業を
小牧ワイナリーのワイン造りには、畑の手入れなど力仕事から、ラベル貼りなどの繊細な手作業まで、様々な仕事があります。
障がいのある仲間たちは、個人の特性に合った仕事に従事しています。
小牧ワイナリーで働いている人の多くは知的または精神的に障がいがある方で、一般企業の障がい者枠での雇用が難しい方です。
例えば、週40時間の労働が体力的、精神的に難しかったり、決められた作業を正確に行うことが難しかったりというケースがあります。
唯一の採用条件は「ここで働きたい意欲がある人」
小牧ワイナリーの唯一の採用条件は、障がいの有無に関わらず「働きたいという意欲がある人」。
「自分のことは自分で決める」という理念にのっとり、ご家族ではなく、ご本人が自ら働きたいかどうかを採用の条件としています。
1年を通してブドウ栽培に取り組み接客や販売の仕事も
仕事内容は基本的に1年を通して、ブドウ栽培に取り組みます。
そのほか、ワインの醸造補助や、ラベルやキャップを付ける仕事、ワイナリーに併設されたショップでの販売やカフェでの接客、外部イベントなどでの販売の仕事があります。
できる限り「自分は何がしたいか」を優先して仕事内容を決めてもらいます。
赤&ロゼに3種/白に2種のブドウを栽培
小牧ワイナリーで栽培するブドウは、赤ワインとロゼワインを造るのがマスカット・ベーリーA、ヤマ・ソービニオン、ブラッククイーンの3種。
白ワインを造るのがもともと多治見修道院で栽培していたローズ・シオターと、日本国内では少数栽培のモンドブリエです。
ワイン製造工程の大まかな流れ
- 収穫期に黒ブドウと白ブドウを収穫し、除梗破砕機にかけ実と梗(茎)を分離させて梗を取り除き、実を粉砕。
- 次に、「醸し発酵」。赤ワインは、破砕したブドウから色素と渋味、タンニンを抽出するため、7〜10日間発酵させ、定期的に攪拌作業を行います。そして、破砕したブドウを圧搾機にかけ、果皮と種子を取り除き、果汁を搾り出します。
- それから「後発酵」を行います。ブドウに含まれる酸味が鋭いリンゴ酸が、まろやかな乳酸と炭酸ガスに分解されてマロラクティック発酵が起こり、酸味が柔らかな乳酸菌に変わるため、まろやかな香味が生じます。
- 白ワインは、搾汁液を発酵させるため、15度前後で低温発酵させます。
- そして「オリ引き」の工程で沈殿物を取り除き、上澄みのワインと澱を分離させます。
- その後、ワインに木の香りや成分が加わる「樽熟成」もしくはワインにフルーティーさを残しつつ味をまとめる「タンク熟成」を行い、瓶詰めをして出荷します。
ビン詰め後も「ビン熟成」によって、ワインの味わいや香りが複雑に変化します。
より多くの仲間に「任せる」上で大切な作業環境の整備
小牧ワイナリーにおいて仲間たちは、次のようなスケジュールで働いています。
通勤については小牧駅のほか春日井駅、AJUの本部がある名古屋市昭和区の御器所駅へバスで送迎しています。
障がい者のワイン造りのために工夫とルール作り
障がいのある仲間たちがワイン造りに参加する上で大切なのは「作業環境の整備」だと考えています。
仲間たちの誰もが難しい作業を理解して、正確にこなせるという訳ではないからです。
主流の棚栽培でなく判断し易い垣根栽培を採用
そこで、いくつかの工夫やルール作りをしています。その一つがブドウの「垣根栽培」です。
日本では、土地面積や降雨量の関係から、ブドウは棚栽培が主流です。その方が多くのブドウが収穫できるからです。
一方で棚栽培のデメリットとしては、熟練の技術者でないと作業が難しいという点があります。
仲間たちがきちんと働くことができるようにという観点から、ここでは多くの畑で垣根栽培を行っています。
作業するブドウが自分の上ではなく正面にくるので、垣根栽培の方が見た目にわかりやすいのです。
副梢切除のルール策定で作業効率を向上
ほかにも、ブドウの副梢の切り方をルール化しました。
ブドウの木は最初に大きな葉が、それに続いて小さな葉が数枚出てきます。
葉がついたブドウの副梢をそのまま放っておくと、日当たりの関係で葉が伸びようとして、ブドウに栄養がいかなくなり、病気などの元になります。
でも全てを切ってしまうと、今度は光合成をしなくなります。
副梢の「2枚残し切り」ルールを明確化
そこでバランスを見て副梢をカットするのですが、どれを何枚除去すべきかを、障がいのある仲間たちが自分で判断するのは難しいもの。
そこで「葉を2枚残してほかは切る」という「副梢の2枚残し」のルールを明確に定めて、ホワイトボードに図を描き、理解してもらうことにしました。
このルール化で、副梢を切る作業ができる仲間を増やすことで、小牧市内にある2ヘクタールの畑での作業効率が上がります。
作業者に「任せる」ことで組織をよりよいものに
また、醸造後のボトリングで、コルクを打栓する作業があります。ここには障がいがある人でも作業できるような機械を採用しています。
それから、ワイン用の化粧箱は紙一枚で構成されています。
折り目をつけるだけで箱になるというオリジナルのものです。1人でも多くの人たちが作業できるように、箱の設計段階から考慮されています。
支援する側の人間がやらなくても、自律で作業を行えるようにしていくことが大事。
障がいのある仲間たちに「作業を任せる」ことで、組織をいかにより良くしていくかがテーマです。
ワイン造りを通して人やモノを慈しむ
この環境で働くことは、障がいのある仲間たちにとって、いい影響があると思います。
ワイン造りは、1年の中で作業内容に変化があります。自然が相手ですから、ブドウ栽培がよくできたという年もあるし、うまくいかない年もあります。
一方で、障がいがある方の中には、同じ作業をずっと続けるのが得意という人もいるのですが、やはり季節の変化やワインの出来を肌で感じながら働くというのは、素晴らしいこと。
小牧市内東部の魅力を発信するために空撮された小牧ワイナリーの動画(小牧市公式YouTubeチャンネル)
小牧ワイナリーをステップに一般企業へ就業した仲間も
比較的、離職率も高くなく、中にはAJUでワイン事業が始まった2003年からずっと働いている人もいます。
また、一部にはここで働いたことをステップに、一般企業に就職した仲間もいます。
自分達が育てたブドウがワインになって、お客さまに飲んでいただける。
そのことを仲間たちが、どこまで感じてくれているかは計り知れない部分もありますが、ワイン造りを通して、人やモノを大切に扱う心が育まれています。
仲間たちの自立に向け評価され喜ばれるワインを
誰もが当たり前に働き、経済活動ができることが理想です。
しかしながら、障がい者の1か月平均賃金と障がい者年金の月額と合わせても、平均的な所得水準には及ばないのが現状です。
この現代においても、親が障がい者の子供を経済的にも支えているという現実があります。
このままでは、親御さん亡き後の障がい者の生活はどうなるでしょうか。
自立した生活のために評価されるワイン生産を
1人でも多くの仲間たちが、働くことで十分な収入を得て、障がいがあっても自由で自立した生活を送ることを目標に、私たちはワイン造りにチャレンジしています。
そのためには、「障がい者福祉施設のワインだから」と買っていただけるのではなく、純粋にお客さまに評価され、喜ばれるワインを生産しなくてはなりません。
小さなワイナリーらしい個性あるワインづくりへ
味の面では、選果の徹底や低温発酵をさせること。
また、オリ引きを減らして旨味成分のあるオリをあえて残すことで、小牧の土地の個性が生かされるような、小さなワイナリーらしいワインを造っていきたいです。
そのためにも、1年1年の作業が大切になってくると思います。
プロモーションや地域のイベント参加も積極的に
今、赤ワインでいえば、色味は少し薄いですが、フルーティーさや果実味の豊かさ、ブドウ本来の華やかさも感じられるワインに仕上がってきています。
他にも、ワインのデザイン性の向上や、ホームページの改良など、プロモーション活動にも力を入れていきたいと思います。
また、コロナ禍でここ数年は少なくなっていた地域のイベントにも、積極的に参加していきたいと思います。
小牧ワイナリーの味の表現に手応え
久しぶりだった今年のゴールデンウィークのイベントでは、従来のお客さまから「ワインの味が以前より良くなったね」という声をたくさんいただきました。
この小牧の地に植えたブドウの木も成熟し、強くなりました。
お客さまのニーズは「甘いワインが欲しい」というものや「熟成感がある樽のワインを」など、様々です。
ここで収穫し醸造したワインで、お客さまのご要望に少しでも応えられるよう、小牧ワイナリーの味を表現していきたいと考えています。
今期のワインは瑞々しいフレッシュな風味に
今年(2022年)の出来は、6月上旬までにブドウの花が咲き、受粉して結実したので昨年より収量が増えました。
ただ、8月後半からの長雨の影響でダメになった畑もあります。
しかし、しっかり耐え抜いた畑のブドウからは、瑞々しいフレッシュな味のワインができるのではと期待しています。
これから春にかけて、醸造の仕上がりを見守っていきたいと思いますので、楽しみにしていてください。
小牧ワイナリー・ななつぼし葡萄酒工房のワインは、オンラインショップからも購入できる。
【社会福祉法人AJU自立の家 小牧ワイナリーの所在地】
- 小牧市大字野口字大洞2325番2
【小牧ワイナリーのWebサイトURL】
【小牧ワイナリーの運営管理】
- 白井尚(施設長・醸造責任者)
- 芳賀俊(サービス管理責任者)
【小牧ワイナリーの事業内容】
- ワインの生産、加工
- ワインと関連商品の販売
- 喫茶、レストランの運営
- イベントの開催
(インタビュー&スクリプト:倉畑桐子、写真撮影:フォトックス・デザイン ほか)
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