無垢材の優しいおもちゃをBtoCで届ける、木工所の新機軸

製造業
創業から70有余年。株式会社大和木工所は、木と人々の暮らしに寄り添ってまいりました。
創業から70有余年。株式会社大和木工所は、木と人々の暮らしに寄り添ってまいりました。
企業からの依頼で特注の造作家具やオフィス家具などを制作している大和木工所が、オリジナルの木のおもちゃの販売を開始する。企画からデザイン、制作、梱包、発送まで全て自社で行うというプロジェクトについて、廣瀬秀太郎代表に取材した。

今年で創業75年となる大和木工所。3代目の廣瀬秀太郎代表(42歳)は職人肌で「自分が目立つのは苦手」とのことで、横顔で出演

座枠屋から特注家具作りへ、一世一代のシフト

大和木工所は祖父が昭和23年に設立した会社で、私で3代目。父は4兄弟の3男で、前社長は父の次兄にあたります。父の代は4兄弟のうち、3人が会社を切り盛りしていました。

実は先代の頃までは、大和木工所は家具制作会社ではなかったんです。「座枠屋」といって、映画館や劇場などの椅子の座枠や骨組みを造る仕事をしていました。映画館の椅子は連結していて、席を立つとパタンと閉じますよね。その背と座の座枠の製作なども自分たちが手掛けていました。

私は18歳で大和木工所に就職しました。当時は材木を積んだり運んだり、干して乾燥させたりする作業をしながら、同時進行で椅子作りをする職人の補助をしていました。木材は、加工できるようになるまで乾燥させるのに時間がかかります。温風などで早く乾かせばいいと思われるかもしれませんが、自然乾燥させた方が木の色味が残るんです。

前社長の息子も働いていましたが、27歳の時、私が会社を継ぐことになったのは、流れというか「勢い」ですね。当時はあまり世間を知らず、「家業を継いで社長になったら、楽に仕事ができるかな」なんて考えていたんです。

ところが家業を継いでみたら、経営は厳しかったですね。そんな時、業界関係者から、「座枠だけではなくて特注家具を造った方がお金になる」と聞いて、自分の代で家具造りを始めることにしました。住宅にチェストやタンス、テレビ台や、企業のカウンターなど、造り付けの特注家具を作ることにしたんです。しばらくは並行して作業していましたが、時代の流れから、座枠造りの仕事は減っていきました。取引先が、中国に安価で発注するようになったのです。

そこで、座枠を造るための設備を処分して、一千万円をかけてローンを組み、家具造りのための機械を買い揃えました。機械が全く違いますからね。

しかし、結果はまたしても厳しいものでした。特注家具は手間が掛かるのですが、その手間に対して利益が少なかったのです。人件費や材料費や諸経費を抜くと、全然残りません。

「TAKAGI」の木工用プレス機

紆余曲折がありましたが、「やはりこれからは特注家具だな」と思って家具造りに本腰を入れたのは、30歳の頃です。それでも、家具造りの技術があるわけではないので、最初は本当に簡単な家具造りや修繕などから入って、低価格の仕事を引き受けていました。

それで技術を身につけながら仕事をしていくうちに、10年くらいしたら、住宅メーカーさんや工務店さんといったお客さんがついてくれたんです。現在は、新築の注文住宅に吊り戸棚を造ったり、リビングにお子さんが勉強できるようなカウンターをつけたり、テーブルとベンチを造ったりするほか、企業の受付などのカウンターやレジカウンター、バックヤードの設備、病院のカウンターや収納や待合室一式…など、大掛かりな仕事や公共施設の仕事をいただくこともあります。

現在、技術を担当するのは私1人。会社は経理である妻と2人だけでやっていますから、大きな案件を受注した場合は、外注さんに協力してもらうこともあります。

オーダーを受けた家具を作るため、木材を採寸する

「職人」だけでも「経営者」だけでもない、新たな挑戦を

私にはずっと、「このまま家具作りを続けていけば、そこそこの利益が得られるだろう。でも、それだけに追われて終わりたくはない」という思いがありました。同じ社長業をしている業界の先輩たちを見ると、その人が「職人」であればバタバタと日々の仕事に追われていて、規模を拡大した会社の「社長」であれば「経営者」の面が強く「職人」ではないという、2つのケースばかり。そのどちらも、自分が思い描く未来とは違っていました。

また、下請け業者である限り、儲けは少ないのですが、自分でモノづくりをするメーカー側になれば、適正価格での販売や雇用が生まれるのではないかという思いもありました。

そんな中で、「何か新しくモノづくりがしたい」という思いが膨らみました。私は思いつきで行動する人間なので、「これがやりたい」と思ったら、すぐに動き出します。

早速、木材の仕入れ先を開拓しようと回っていたところ、様々な無垢材との出合いがありました。日本ではあまり手に入らない樹種には、色がきれいなものが多く、その多彩さに惹かれました。

ママ目線を生かした「kky」のおもちゃを手にとる妻の香緒里さん。おもちゃはウレタン塗装され、アルコール拭きが可能

子ども達と環境に優しい無垢材の商品を考案

雑貨屋の店長をしていた妻と2013年に結婚したことも、大きな転機になりました。現在8歳と4歳になる2人の子どもにも恵まれました。

子ども達が赤ちゃんだった頃、妻からは「子どもが喜ぶ木のおもちゃが欲しいから、作って」と言われて手作りすることがありました。雑貨屋勤務の経験からモノを見る目が確かだった妻は、「今はSNSなどで海外のデザインのおもちゃを目にすることがあるけれど、個人輸入はハードルが高いし、日本製の安心・安全は譲れない。そうすると納得のいくデザインのものが見つからない」と話していました。

このママ目線のアイデアに、私が感動したきれいな無垢材を組み合わせれば、現代のお客さんのニーズに応える商品が生まれ、BtoCのビジネスができるのではないかとひらめきました。

自社ブランド「kky」の木のおもちゃは、すべすべで優しい手触り。着色をせず、樹種の違う木の色や木目そのもので食材を表現しているのが ユニーク

一般的に家具業界では、加工がしにくいほど硬い木には、あまり買い手がつきません。私はそこに目をつけました。流通ルートを独自に切り開き、難加工の木を手頃な価格で直接買い付けて、手間を惜しまなければ、技術次第で高品質なオリジナル商品を作ることができる、と。

また、加工した木材の残りは利益にならず場所をとるので、本来は捨てられることが多いのですが、それらを買い取ったり引き取ったりして、大きな家具ではなく小さなアイテムを作れば、端材の活用がSDGsにも繋がると思いました。

工房には様々なサイズや樹種の木材が揃う。例えば、トチやケヤキ、タモやナラといった硬い木の細かな加工は容易ではないという

そこで、妻のアドバイスを参考に、無垢材を使って高品質で安全性の高い、おしゃれな木のおもちゃを作ることにしました。お子様が手にしても安全な、国産の木のおもちゃで、家の中に出しっぱなしにしておいてもインテリアのように見えるデザインを模索しました。

そこで、第一弾として、無垢の木のおままごとセットを作りました。木の素材そのものの色を子どもたちに感じて欲しいと思い、着色はせず、木の色にイメージが合う食べ物や飲み物、調味料などを木工で製作しています。例えば、オレンジがかった「けやき」はオレンジジュース、ブラウンカラーの「アフリカンウォルナット」はコーヒー、赤紫糸で木目が美しい「ブビンガ」はグレープジュースという具合です。

木の優しい手触りと共に、世界にはこんなにも木の種類があって、色や模様も様々だということを、子ども達が遊びながら知ってくれたら嬉しいですね。
ブランド名は、木・暮らし・大和の頭文字のアルファベットを取って「kky(ケーケーワイ)」と名付けました。

我が子が小さい頃、組み立てる際にビスや釘を使わずに自作したおままごとのキッチン。ナチュラルな「kky」のおもちゃを置くとよく似合う

親子3代で丁寧に使い継げる木のアイテムを届けたい

現在は「kky」のブランディングを確立している最中です。販売はECサイトを立ち上げて、企画やデザイン、制作、販売、梱包や発送など、自社で全てを行う予定です。今後はラインナップがどんどん増えて行く予定で、今は試作を続けています。

我が子への最初のプレゼントにしたり、大切な人への贈り物にしたりできるような、特別なアイテムにしていただければ嬉しいです。祖父母から孫まで親子3代で長く使い続けてくれるようにと、心を込めて作っています。

木の色や模様を生かして試作中の「kky」のおもちゃ。パンやチーズなどのラインナップを検討中

また、端材の活用がテーマの一つである「kky」のおもちゃですが、家具にもおもちゃにも使われなかった端材は25cmに加工して、薪割りの必要がない「乾燥薪」として、小牧市のふるさと納税の返礼品に出品しています。

ふるさと納税サイト [ふるさとチョイス]
掲載品数No.1のふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」。お肉やお米など全国の特産品57万品目をご紹介。クレジットカードにも対応。ランキングや寄付上限金シミュレーションがあるから初めての方でも寄付が簡単です。

保管を考えると捨てる方が利益になる場合もありますが、最後まで木材に責任を持ちたいという思いがあります。薪は良質な木材をしっかりと乾燥させているので火が付きやすく、キャンプの焚き火などに好評の声をいただいています。

一風変わった木材を買い付けてくることもある。「使う場所が少ないだけで、難加工の木も悪い木ではないんです」と廣瀬代表

雇用の面では、地域のシニアや障がい者施設に声をかけて、「少しだけでも働きたい」という方達に、家でできる内職の仕事をお願いしています。手作業で木を削ったり、商品を袋詰めしたりというような作業がメインです。実は、社長になってから私は心身のバランスを崩し、人と会うことができなくなった時期がありました。だからこそ、「人と会わずに働きたい」「自宅で作業したい」といった気持ちがわかるため、そういった人達に依頼できる仕事を作りたいという思いをずっと持っていました。今では「働くことで気晴らしになる」と言っていただくこともあり、この取り組みを始めてよかったと思っています。

今の自分を動かしているのは、「自社ブランドっておもしろいな」という思いです。今後は、子どもから大人まで長く使えるような、木の机や椅子にも挑戦したいですね。

会社としては、依頼された家具制作以外にも、声をかけられたら出張してリフォームを手伝うなど、「街の便利屋」のような仕事をしています。近所の飲食店へ出向いて椅子の張り替えをしたこともあります。私は小牧市で生まれ育ったので、地域密着で皆さんのお役に立ちたいという思いがあります。今後は自社ブランドを盛り上げることを通して、より地域に貢献していきたいと思います。

アイアン部分もデザインした子ども用の机と椅子。サクラの木で机、クルミの木で椅子を制作

 会社所在地

〒485-0016 愛知県小牧市間々原新田203-1
TEL:0568-73-8464

 Webサイト URL
創業から70有余年。株式会社大和木工所は、木と人々の暮らしに寄り添ってまいりました。
創業から70有余年。株式会社大和木工所は、木と人々の暮らしに寄り添ってまいりました。
 代表者

代表取締役社長 廣瀬 秀太郎

 事業内容
家具制作、木製品加工、材木販売

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