小牧市北部に本社と工場を構える有限会社佐藤木型製作所は、平均年齢33歳という昨今の製造業としては若い職人集団の企業です。
先代社長に始まる鋳造用木型の技術を柱に残しつつ、現在では三つの事業部制のもとで自動車・航空、半導体関連といった最先端分野の製造や開発支援にも深く関わっています。
総勢50名ながら大手企業との開発を行う同社は、中小企業の新卒採用が極めて困難とされるこの時勢において新卒学生の継続的な採用を行えています。
今回の記事では文字通り小牧市の若き「光モノ」ともいえる同社の紹介と、採用を含め人材を中心に据えた経営方針、それらが生み出している好循環の成り立ちについて伺いました。
佐藤木型製作所 代表へのインタビュー

佐藤木型製作所 代表へのインタビュー|佐藤裕仁 代表取締役
「木型」とつく社名と事業内容とのギャップ
「佐藤木型製作所という名前を聞いて、みなさんまず驚かれるんです」
どこか古風な社名と社屋や現業とのギャップを聞き手が正直に述べると、佐藤裕仁社長は笑ってこう答えました。
創業以来の看板こそ「鋳造用木型」ですが、いまや空飛ぶクルマの内外装、半導体洗浄装置の筐体、FA機器関連の製造や試作開発、3Dモデリング、さらにはデジタル要素を取り入れた彫刻家とのコラボレーションもしている。
AIと自動化が加速する時代に、逆張りともいえる「人の手」に賭ける経営について伺いました。
佐藤社長の入社・事業承継の経緯
Q:入社や事業承継の経緯について教えていただけますか
父(先代社長、現会長)の病をきっかけに、大学卒業後すぐに入社することになりました。でも、いきなりトップに立っても職人たちとまともに話せない。
だから最初の3年間は設計とCAD/CAMを徹底的に習得して現場の言葉を理解して、対等に話せるようにしました。
経営に携わるようになり意識したのは「現場に入りすぎない」こと。事業部長や同世代の幹部に実務を任せ、私は組織全体を見る役割に徹するようにしていました。
現在の佐藤木型製作所とは
Q:佐藤木型製作所の現在の姿について
創業からの柱は「鋳造用の木型」です。そこから業務範囲はずいぶん広がっています。
新しいところでは空飛ぶクルマの外装・内装、オリジナルEVの試作にも関わっています。CFRP(カーボンファイバー、炭素繊維強化樹脂)やFRPを使った成形、薬剤を使う半導体洗浄装置の樹脂筐体など、素材も用途も多岐にわたっています。
やっていることを先に知った後に社名を見せると「え、木型屋さんが?」となる。私たちはそのギャップをむしろ武器にしています。そして参加したプレゼンの場でも「できます」と言い切る。
これまでの技術を応用すれば、たいていの仕事には挑戦できるからです。
Q:やったことがない仕事にはリスクが潜んでいるのでは?
そうですね。でも「やったことがない」と「できない」は別の話だと思っています。
職人たちは現場でミスもします。でも、そこから成功体験を積み重ねていく文化が大事で、ある程度のミスは許容しています。失敗を隠す組織にはしたくない。
AIや自動化が進む時代に「人の手」を前面に出す逆張り

AIや自動化が進む時代に「人の手」を前面に出す逆張り|木型のNC加工
Q:AIやデジタル技術も生かしていますが、前に出すのはその逆でしょうか?
この時代に人の手を全面に出しているのは、意図的な逆張りといえます。皆がデジタルに向かうからこそ、人間が手で作る技術に希少価値が出ると考えています。
機械にはできない「最後の仕上げ」の部分に、人の技術が宿る。その価値は、自動化が進めば進むほど上がっていくと思っています。
だから採用でも、私たちの考えに共感してくれる若者を求めています。「効率よく稼ぎたい」でなく「ものを作る面白さを突き詰めたい」という人です。
そういう人が来てくれたとき、うちは最高の環境を提供できると思っています。
継続的に実現できている採用について
Q:継続的な新卒採用のサイクルについて
いちばん大きいのは「技能五輪」です。社員が敢闘賞を受賞したことがきっかけで、技能五輪を目指す若手が次々と入社を希望するようになりました。
実績があると、高校の進路指導の先生が「この会社なら安心して生徒を送り出せる」と信頼してくれる。それが継続的な紹介につながっています。
もう一つは、美術・芸術系の大学からのルートです。名古屋造形大学、名古屋芸術大学、武蔵野美術大学——彫刻や造形を学んだ学生の中には、「木を削る」や「形を作る」という手仕事に強い関心を持つ人がいる。工業高校の学生だけじゃなく、そんな「こだわりの層」を積極的に採用しています。
人材育成の方針について

人材育成の方針について|木型事業部の作業風景
Q:若手の育成について
ゼロから若手を育てることは、短期的には利益率を下げます。正直、それは「無駄」の多い行為です。
しかし私たちは、それを「将来の稼ぐ力への先行投資」だと捉えています。10年後の会社の競争力を見越したら、いまここに投資するべきだという考えです。
そのうえでオールマイティな職人を育てるのが理想です。技能五輪で家具・建具を専門とする若手でも、入社後は半導体関連の樹脂加工やCAD/CAMも経験させる。
そうして幅広い技術を身につけてから、最終的には本人が「建具をやりたい」や「設計に進みたい」と自分で選べる環境にしたいです。
Q:定着率は高いようですが、新卒入社から辞めていく社員の方はいますか?
います。でも、前向きな理由が多いんです。——「3年修行して、自分でお皿を作りたい」や「彫刻家の弟子になりたい」——という明確な目的を持って入社して、それを達成して次へ進む。
会社としても、この流れを肯定的に捉えています。縛り付けるより、そういう人が集まってくる会社のほうが、長期的には強い。
佐藤木型製作所の新卒採用と人材育成、経営方針編

佐藤裕仁社長と社員の方たちの1カット
佐藤裕仁社長は、インタビュー時の「新卒採用の秘訣は?」という問いに対して「基本的なことを実直に行っているだけ」と答えてくれました。
この中の「基本」の裏には、自社の技術や文化を外部へ適切に伝える「可視化(情報発信)」の仕組みが確実に作用しています。
新卒採用と人材育成のポイント
有限会社佐藤木型製作所の新卒採用と人材育成における5つのポイントを挙げます。
これらに加えてブログやSNSを中心に会社の日常を実直に開示しており、求職者から見ると解像度や透明性は高く映り、安心や信頼の醸成に寄与しているといえます。
1. 技能五輪を軸とした人材確保の好循環
採用における最大の強みは、技能五輪を通じた人材確保の好循環ができている点です。
実績から生まれる好循環:
過去に「試作モデル」職種の社員の敢闘賞受賞をきっかけに、技能五輪を目指す若手スタッフが継続的に入社する好循環が生まれています。
高校との信頼関係:
技能五輪は22歳の年齢制限があります。高校生を対象とした求人においては技能五輪における実績があることで、進路指導の先生からの信頼を獲得。継続的に学生を紹介してくれる体制が整っています。
2. 美術・芸術系大学からの人材獲得
木型製作という「手仕事」の魅力を活かし、工業高校のみならず造形大学や芸術大学の出身者も積極的に採用しています。
採用の背景:
彫刻や造形を学んだ学生の中には、同社の「木を削る」や「形を作る」という高度な手仕事に興味を持つ人が多く「こだわり」を持った層が採用の対象となっています。
3. 「オールマイティな職人」を目指す姿勢
採用時には特定の分野に固執するのではなく、幅広い技術を吸収する意欲が重視されます。
多才な育成:
佐藤社長は「オールマイティな職人を育てる」とのコンセプトの下、技能五輪に出場する社員でも実務では半導体関連の樹脂加工やCAD/CAMなど、多岐にわたる業務を経験させます。
キャリアの柔軟性:
入社後に様々な業務を経験させた上で、最終的には本人が「建具をやりたい」のか「設計に進みたい」のか、自分の進む道を選べるような環境を提供しています。

佐藤木型製作所の技能五輪出場歴(会社ホームページより)
4. 短期利益より「人材育成」を優先
採用と育成を短期的なコストではなく「将来の稼ぐ力のための先行投資」と捉えています。
先行投資としての採用:
ゼロから若手を育てることは、短期的には利益率を下げる「無駄」の多い行為ですが、社長はあえてそこにフォーカスし、10年後の会社の競争力を見越して採用を行っています。
逆張り戦略:
AIや自動化が進む時代だからこそ「人の手仕事による技術」に価値を置くという、いわば逆張り戦略をとっており、この考えに共感する若手を求めています。
5. 社員のモチベーションと定着率の高さ
若手が「やりたいこと」を尊重している結果として、離職する場合も前向きな理由であることが多いのが特徴です。
自己実現の支援:
例えば「3年修行して自分でお皿を作りたい」「彫刻家の弟子になりたい」といった具体的な目的を持って入社し、次のステップへ進むことを会社としても肯定的にとらえています。
働きやすい環境:
平均年齢33歳と若く、3人の事業部長も社長と同世代(30代後半〜40代)であるため、若手にとって馴染みやすく、意見を伝えやすい組織構成になっています。

佐藤木型製作所のふるさと納税返礼品:木製トイキッチン
今回の記事のまとめ
佐藤木型製作所はメイン事業以外にも、社員のモチベーション向上や市場調査を目的として、自社製品の開発も行っています。
オリジナル製品として組み立て式のクリスマスツリーや、ふるさと納税で人気を博す高級木製トイキッチンなど、職人のこだわりを形にして展開しています。
注目に値する新卒採用は「技能五輪での実績」と「芸術的感性を持つ層へのアプローチ」を核とし、個人のキャリア選択を尊重した上で長期的な視点で職人を育成する方針です。
伝統的な木型の技術を核に据えながら、「人」にフォーカスした経営で最先端産業や芸術分野へとその領域を広げ続けています。
【有限会社 佐藤木型製作所 会社所在地】
小牧市横内立野680-1
【コーポレートサイトURL】

【代表者】
代表取締役 佐藤裕仁
【事業内容】
- 鋳造用木型事業部:木型(諸機械などの鋳造用木型)、 砂型鋳造用木型・金型
- 第1事業部:デザイン/ワーキング/試作・モデルアップ/マスターモデル、検査治具・生産型・成形型、FRP関連 成形型・生産型・LRTM
- 第2事業部:ゲージ・治具/FA機器関連、半導体関連樹脂加工/樹脂溶接、3Dリアルモデルング、リバースエンジニアリング、開発支援
【資本金】
5,000千円
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